きものは独特な衣装だと感じます。例えば、帯の太鼓柄はどれほど美しくても結んだ姿を自分では見ることができません。よく考えると、不思議な作りだと思いませんか?また、きものの柄はTPOに深く関係します。一つ一つの柄に微妙なニュアンスの違いがあるのは、世界の衣装の中でも和服の大きな特徴だと思います。なぜきものはこういうつくりになったのでしょう?それは、きものが自分のためだけに着るものではなく、誰かへの想いを表すためなのではないかと思います。
 「壽(よろこび)」に「應(こたえる)」という想いを「應壽(オージュ)」という屋号に込めて、親子二代で友禅工房を営まれているのが佐伯さん親子です。代表の佐伯利昭さんは半世紀にわたり京友禅に携わってこられました。現在は独立し、ご子息の昭彦さんと、昭彦さんの奥様の加代子さんの三人でものづくりをされています。
 佐伯さん親子のものづくりの根底にあるのは「古典」です。 「もちろん、現代風に、とか、遊び心を取り入れて、など、お客様のご要望に応えるものづくりをしていますが、きちんと古典を踏まえて、解って、でなければ、陳腐なものになってしまうと思うのです。」と昭彦さんは話してくださいました。
 何故現代のきものにおいて古典柄が必要とされるのでしょうか。それは、古典柄が長い歴史の中で普遍化された、私たち日本人の想いの結晶だからではないかと思うのです。一つ一つの柄に、語りつくせないほど深い想いが長い時間をかけて込められてきたのです。誰かの幸せを喜び、そしてずっと幸せが続くことを願う…それはたぶん千年前の日本人も現代の私たちも同じ想いなのではないでしょうか。古典柄は長い歴史を通して、太古から現代までずっと私たち日本人の共通した想いを表し続けているのです。「應壽(オージュ)」の佐伯さん親子が古典柄を追い求めるのは、私たちの心の最も深いところにある想いをかたちにするということなのかもしれません。
 工房へお伺いしたとき、利昭さんは舞妓さんのための着物の地染めをされていました。佐伯さんは友禅染の主要な工程を工房内で行うため、オーダーメイドにも細かく対応されています。皆様の「こんなものができたら」というお気持ちを是非ご相談ください。想いをかたちにすることこそ、應壽さん親子の本領なのですから。
 佐伯さんは現在親子三人でものづくりに取り組まれています。 古典柄といっても、それぞれの時代の染織家たちが、それぞれの時代に求められるかたちで表し続けてきました。佐伯さんも父から子へ伝統を受け継ぎつつ、三人がそれぞれ自分の想いを作品に表しています。伝統は受け継がれながらその人その時代の風を取り込むことで、さらに豊になっていくのだと思います。

■ 佐伯利昭
山口県萩市に生まれ、京友禅染工房「高橋徳」に入社し最高級呉服制作に従事。現在は独立して「應壽(オージュ)」を設立し、親子でものづくりに取り組む。日本人の精神に脈々と受け継がれる世界を探る探求者。

■ 佐伯昭彦
京都生まれ。八歳から一八歳まで剣道に邁進。京友禅染工房「高橋徳」で仕事の見習いを経験し、以後父利昭に師事しつつ、友禅の技を求める。デザインを考えるのが好きというクリエイター気質。

■ 佐伯加代子
兵庫県は姫路市の生まれ。カメラマンアシスタント等の仕事を経て京友禅染工房「高橋徳」に研修生として住み込み修行。結婚後は義父、夫と共にものづくりに取り組む。繊細な糸目糊が得意。女性らしい視点から「着たくなるきもの」をつくる。