名古屋帯が現在のように普及したのは、明治から大正にかけて、女性の社会進出がどんどん拡大していた時代でした。考案したのは、名古屋女学校の創設者である越原春子女史。当時の主流だった丸帯や昼夜帯は、身支度に時間がかかるものでした。学園の創設に奔走していた越原春子女史にとって、もっと簡単に身支度ができないか、という思いが生まれたのは自然な成り行きだったでしょう。そして独自に制作したのが、一重太鼓で前を半分に仕立てた名古屋帯でした。名古屋帯はきものを着る女性の実用的な視点から生まれた帯だったのです。
 何気ない普段に結ぶ素朴な帯、ちょっと遊び心を楽しみたいお洒落な帯、すこし改まったような場所で結ぶ上品な帯・・・軽くて結びやすい名古屋帯は、用途も多彩で着用の機会も自然と多くなります。また一口に名古屋帯と言っても、素材や技法などによって多種多様です。しかし、なかなか一度に色々な名古屋帯をご覧いただく機会というのはありませんでした。
 今回は桝蔵順彦さん、高橋孝之さん、寺田豊さんのご協力のもと、織りのものから染めのものまで色々な名古屋帯をご覧頂きたいと思います。是非この機会にお気に入りの一本をお探しください。

■夢訪庵(むほうあん) 桝藏 順彦
 帯として結んだときの着心地、美しさにとことんこだわったもの作りをされている桝藏さんの帯は、日本を始め、インドネシアやタイなどアジア地域の草木や蚕を原料に、手機で一点ずつ制作されています。風格ある柄から遊び心満載の帯まで、その世界は無限に広がります。

■染の高孝(たかこう) 高橋 孝之
 東京の高橋孝之さんは「技のデパート」と言われるほど、高度な技法を様々に駆使されます。墨流し染、一珍染、更紗染、素描など、それぞれの技の個性的な表情を活かし、時には組み合わせ、多様な作品を生み出します。一つ一つの技術に確かな自信があるからこそ可能な表現です。

■京絞り寺田 寺田 豊
 生地を糸などで圧迫し、防染する絞り染は、染色技法の中でも最も古くから伝わる技法の一つ。そんな絞り染の可能性を日々追求されているのが寺田豊さんです。絞り染独特の柔和な輪郭は、絹糸が本来持っている輝きや柔らかさと相まって、あたたかい光に包まれるような印象を与えます。